信州上田「月のテーブル」案内

所在地:長野県上田市仁古田
電話番号:0268-31-2134
2008年10月30日(木)ー11月9日(日) Maki Textile Studio展 (期間中無休)
open:水 ― 土 10:00-18:00
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 なぜこの店を特別扱いでご紹介するのかというと、私ぱるばの実家だからである。
 場所は信州上田。長野新幹線の上田駅からバスで20分ほどの国道143号ぞいにある。
 やっているのは、私の妹である田中惠子。かつては五日市の真木テキスタイルで番頭役を務めていた。

 私の実家・田中家は百姓家なんだけども、祖父の田中信義が一徹に守り続けてきたこともあって、古いものがいろいろ残っている。
 かつて造り酒屋もやっていた関係上、かなり立派な門構えがあって、戦前には日活映画『爆音』の中で「村長の家」としてロケに使われたこともある。

 私は二人兄妹の長男なんだけど、ご覧の通りの遊び人で、早くから「家は継がないよ」と明言していた。
 そうしたら妹の惠子が97年こちらに移り住み、こんな店を始めたってわけで、私としても、これで後顧の憂いなく存分に遊べると喜んでいる。

 しかし、こんな田舎でお客さんなんか来るのかな〜と思っていたんだが、これがけっこう来るのだ。今日は寒風吹きすさぶ2月21日の日曜日。店内では十人ちかくのお客さんがコーヒーカップなぞを傾けている。
 私はカウンターでパソコンごっこ。今度お客さんが入ってきたら、立ち退きを迫られるかもしれない。(左上写真・店の外観。実際、これを書いた後、立ち退きになる)

 17坪ほどの店なんだけど、驚くなかれ、これがかつては、蚕室と山羊小屋だったのだ。
 建てられたのは百年ほど前のこと。蚕室は35年前まで、山羊小屋は30年前まで使われていた。
 だから私は、この喫茶室スペースでかつて幾千もの蚕たちがワサワサと桑を喰んでいた音を覚えているし、またカウンタースペースで飼われていた雌山羊たちの乳を飲んで育ったのだ。(右側写真・左手前が喫茶室スペース、右奥がカウンタースペース。座っているのは真木千秋、カウンター内が田中惠子)

 ところでこの「月のテーブル」(略して月卓)は、「カフェ&ギャラリー」と銘打っている。つまりただの喫茶店ではなく、ギャラリーとしての情報発信の役割も担おうとしている。
 現在、入口のところに四坪ほどのギャラリースペースがあり、真木テキスタイルスタジオのストールや服などが常設展示されている。また喫茶スペースのそこここには、当スタジオのインテリア製品のほか、陶器やガラスなどの作家物が展示されている。
 ここ上田はかつて蚕都とも呼ばれたところ。その古い蚕室を利用してタッサーシルク製品を展示販売しているということで、地元メディアなどの注目を浴び、けっこう新聞や雑誌に紹介されているようだ。

 建物ばかりではなく、家具什器も古いものをいろいろ使っている。頑固者・田中信義のおかげで、蔵にはゴッタク(がらくた)類がたくさん残っている。その中には昔の養蚕用具とか製糸器具とかがあるのだが、そうしたものが布の展示などに有効利用されている。そういう古い木製器具は、手織物の風合いによくマッチするものだ。
 また机とか椅子とか、なんか見覚えあるな〜と思われるものが、楽しげに第二の人生を送っていたりする。だから椅子などもいろんなカタチのものが混在するのだが、それがまた気取らないナチュラル感を演出している。(左写真・手前に第二の人生を送る丸テーブルと椅子。椅子張り地はすべて当スタジオのもの)

 私にとってうれしいのは、このスペースが禁煙なこと。せっかくリラックスしに来たのに、隣で無遠慮にスパスパやられたのではたまらない。服にもニオイがつくし。
 煙草の喫いたい人は、外にある喫煙席で喫う。そうすれば誰にも気兼ねすることなく、こころゆくまでかかる不健康な営みに耽ることができるのである。
 これからの店づくりは、人の吸う空気も含めてトータルな環境づくりを考える必要があるだろう。(この禁煙については、私の強い主張によって実現したという経緯がある!)

 トータルな環境づくりといえば、大きなウェイトを占めるのが音楽だろう。BGMがうるさいので入りたくない!って店もかなりあるものだ。この店で流れるのは、ミネハハとか、ウォン・ウィン・ツァンとか、コビアルカといった、いわゆる「ヒーリング」系の優しい音楽。
 彼女自身、一時はミュージシャンを目指したこともあるので、このスペースはライブハウスとして使われることもある。来週は満月ライブと称して、上田在住のギタリスト馬島昇のステージがある。
 ついでにここには、日本で唯一「田中ぱるば」コーナーがあって、拙著拙訳を販売しているのである! (真木テキスタイル青山店にはないのだ! 写真右)

 さて、田中惠子のプロジェクトはこれにとどまらない。
 父親の一夫を巻き込んで、今度は蔵をギャラリーにしようというのだ。
 ここには大正期に造られた土蔵があって、これには私もいろいろ思い出がある。
 その最悪なのが、屋敷牢…。子供の頃、ワルサをすると、その土蔵に入れられたのだ。あるいは、家の建て替えの時、祖父母とともに寝起きしたこともある。

 その土蔵の一部を改造し、ギャラリーにしようという。
 その名前はもう決まっている。いわく「スペースさ蔵」(さくら)。一時惠子は「佐倉惠子」と称していたので、それをもじったというわけ。
 この「スペースさ蔵」のロゴも、「月のテーブル」と同じく、真木千秋が揮毫することになっている。

 二階建てなのだが、その二階部分の床を外し、ワンフロアにするそうだ。
 その作業を、今、父親の一夫がやっている。(写真左)
 この人は元銀行員で、もう七十を過ぎているんだけど、そもそもが肉体派で、家でじっとしているのが嫌い。だからこのプロジェクトは彼にとって、冬場の格好の遊びになっているのである。
 ギャラリー・オープンは99年の5月。真木テキスタイルの展示会をオープニング・イベントとするらしいから、その時にはまたご案内いたしましょう。

 
二台のチェロによるコンサート・2004/10/31

 群馬交響楽団のチェロ奏者二人によるコンサート。
 実はギャラリー主の田中惠子が現在、チェロの稽古に励んでいる。
 その先生が群響の主席チェロ奏者、レオニード・グルチン氏だ(写真左側)。
 その縁でこのたび、同僚のファニー・プザルグさんを伴ってのデュオコンサートとなった。
 グルチン氏はロシア人、ファニーさんはフランス人。二人とも日本語が堪能だ。

 かつて蚕室だったギャラリーに響き渡る豊潤なチェロの音色。
 小さなスペースなので、臨場感も抜群である。
 演目もパガニーニ、オッフェンバックからフラメンコまでバラエティーに富む。
 親しみやすい二人の個性もあいまって、お客さんも満足の様子であった。
 「先生ってホントに上手!」とやや当たり前の感想は、主催者の田中惠子。
 「お客さんが本当に熱心に聴いてくれた」と奏者も喜んでいた。
 グルチン氏の奥さんはピアノの名手だというから、今度はそのコンビで聴いてみたいものだ。

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