一枚の布のできるまで


 
お店の片隅に
なにげなくかかる一枚の布。
 たかが「布」ではありますが、
じつは、その一枚一枚に
けっこうな歴史が秘められているのです。
そのへんをちょっとご紹介しましょう。


*   *   *

 

1 素材探し

 織物は糸から始まります。
 だからまず大事なのは、良い糸を探すことです。
 当スタジオの場合、一般に手紡ぎ糸を好みますから、糸の産地まで出かけてみます。そしていろんな手づるをたぐって、良い糸を探し、ときによっては紡ぎかたに注文をつけます。
 それでも満足できない場合には、素材の産地まで足を伸ばします。たとえばインドのような広い国の場合、糸の素材の産地と、糸を紡ぐ場所が違っていたりするのです。
 タッサーシルクの場合がそうです。原料となる繭の産地と、それを紡ぐ地域が数百kmも離れていたりします。特別の素材が欲しいときには、紡ぎ屋さんと一緒にその産地まで出かけていって、調達ルートをつけてきたりもします。
 最近は沖縄の素材に注目しています。西表島の染織家・石垣昭子さんのもとに弟子入りして、芭蕉の糸の使い方を習ったりしています。

写真右・バンガーロール郊外の村にて



2 試し織り

 いい糸を見つけたら、しばらくの間、手元に置いて、ながめたり、なでたり、さすったりしています。必要とあれば糸染めもします。ほかの素材と合わせたらどうなるか、こんな構造にしてみたらどんな風合いが出るか、あれこれ想像します。
 何かひらめくものがあったら、まず経糸(たていと)を作ります。それを機(はた)にかけたら、今度は緯糸(よこいと)を打ち込みます。糸を変えたり、密度を変えたり、構造を変えたりしながら、いろいろ織ってみます。
 織り上がったら機から外し、水洗いして、乾かします。いちばんワクワクする瞬間です。縮収の具合など、最終的な風合いをチェックします。

写真右・養沢のスタジオ



3 経糸かけ

 気に入った織りサンプルができあがると、いよいよ織師さんのもとへ持って行って、本製作に入ります。織師さんといっても、今はみんなインドにいますから、すなわちインド行きを意味します。現在は年三回ほどインドに出かけます。
 最初の大仕事は経糸かけです。何十mかの経糸をかけるので、まとまった量の糸が必要になります。
 私たちの場合、かなり特殊な糸を使うので、その手配にだいぶエネルギーを費やします。必要とあれば糸を染めに出します。自分たちで草木染めすることもあります。
 糸が確保できたら、織師や経糸職人と一緒に経糸をつくります。縞柄や空羽(あきは)織りなど微妙な色合いが必要なときには、千本近い経糸を一本一本指示します。不均一な手紡ぎ糸や繊細な糸は切れやすいので、特に神経を使います。



4 織り出し

 経糸ができ、ビームに巻取ったら、それを機にかけます。これは織師の仕事です。私たちの作った縞を、一本一本まちがいのないよう綜絖(そうこう)に通し、筬(おさ)に通します。
 経糸がかかったら、今度は本製作用のサンプルを作ります。織師の横について、緯糸をひとつひとつ指示しながら打ち込んでいきます。手織りの難しいところは、筬の微妙な打ち込み加減で織り上がりがだいぶ違ってくることです。だから最初のうちは付っきりで、一打ち、一打ち、指示を与えます。織師もさぞやたいへんなことでしょう。そこを、なだめつすかしつ、最初の一枚を織ってもらいます。
 織り上がったところで、機から切り離し、水で洗って、乾かします。やっぱりいちばんワクワクする一瞬です。

写真右・パートナーのニルーと織りのチェック



5 本製作

 そうしてやっと本製作に入ります。もう何年も一緒に仕事をしている織師さんたちなので、たとえ言葉は通じなくても、こちらの希望はだいたい心得ています。でも人間ですから、ときには気が緩んで打ち込みが甘くなったりもします。だから毎日チェックは欠かせません。
 経糸が全部終了したところで、織物は織師の手を離れます。織り上がった布は検査の目を経て、難アリ物ははぶかれ、やがて航空便で日本に送られます。

写真右・織師ワヒッド



6 仕上げ

 日本は品質管理が世界で一番きびしい国です。織物だとて例外ではありません。インドでは問題にもならないようなちょっとしたキズも、日本では許されません。また日本人好みの風合いというのも、日本人にしかわかりません。そこでインドから送られてきた布はすべて、五日市の工房で入念な仕上げを施されます。
 そうして初めて、青山の真木テキスタイルスタジオや、日本各地のギャラリーに並ぶというわけです。




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