7月1日(月) テキもさるもの
今年はビワがよく成るらしい。
そこここに、黄色い大振りの実をつけた木を見かける。
養沢の谷あいにある我が家にも、ビワの木が二本ある。
そのうち大きい方が、いつになく立派な実をつけていたので、その実の熟するのを私も心待ちにしていたわけ。
ところが、黄色く熟す前に、すべて消え失せてしまった。
谷の動物たちに食い尽くされてしまったのだ。
最初はヒヨドリの仕業かと思ったが、そうでもないらしい。
小枝が二本ほどへし折られている。
いくら騒々しきヒヨドリとて、そこまでの体力はない。
ある日、地面にひとつ、糞が落ちていた。
犬の糞くらいの大きさだが、その内容物が尋常ではない。
ほとんどがビワの種で占められているのだ。
どうもビワをまるごと食っているらしい。
猿だ。
どうりで最近、よく出没すると思っていた。
昨日の朝など、早朝から我が家の屋根の上でドタバタやられて、じつに安眠妨害であった。
眠い目をこすりながら真木千秋が外に出てみると、屋根の上には二匹の猿。
追い払おうとしたらしいが、すっかりナメられていて、いっかな動こうとしない。
今回はビワではなく、ジャガイモらしきものを食べていたそうだ。
おおかた近所の畑で盗掘してきたものだろう。
スーパーの袋を手に下げ、ダイコンを盗掘して持っていった(!)、 という目撃談もある。
農家のみなさんにはまことに気の毒な次第ではあるが、彼らとて生活がかかっているわけだ。
できるだけ仲良くやっていければと思う。
オレもサル年だしな。
関係ないが、当スタジオの女たちの間で、今般のW杯プレーヤー中一番人気だったのは、たれあろうオリバー・カーンであった。
(もっと関係ないが、今を去る二十六年前、オリバー君という知能の高い類人猿が話題になったことあるけど、覚えてるひといる?)
ともあれ、せめてビワの種だけでも、近辺にしっかり蒔きつけてほしいものだ。
ビワは染色に欠くことのできない重宝な木だからだ。
(杉林のかわりにビワ林にでもなれば、彼らも幸せなことだろうが)
7月3日(水) カオリの消息
かつて真木千秋には、香という名のふたつ違いの妹がいた。
職掌は当スタジオ・テキスタイルデザイナー。
ところが一年半ほど前、我々の前からスッと姿を消してしまったのである。
そういえば最近めっきりその姿が…とお思いの向きも多かろう。
爾来、風の便りでは、インドにいるとか、名古屋方面にいるとか…。
しかし、その実態は杳として知られざるままであった。
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本日、我々itoito取材班は、ついにその所在を突き止めたのである!
場所は山梨県北巨摩郡長坂町。
八ヶ岳の麓・標高おそよ800m。
その人跡稀なる森の中で、カオリはひっそり…
というか、かなり精力的に家を建てていたのである。
フィンランド製のログハウス・キットを購入し、パートナーと二人でセルフビルド(自己組立)だ。
けっこう本格的!
作り始めて約一ヶ月で、写真の通りである。(二人の人物の右側がカオリ)
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しばらくぶりに会うカオリは、髪もショートにし、逞しく日焼けして、ワイルドな風情。
今年中には完成させたいとのことである。
家の一室をアトリエにして、染織の教室もやってみたいというのが将来の希望だ。
家作りの合間に当スタジオの仕事も手伝う模様であるから、また展示会などでお目にかかることもあるだろう。
真木千秋もすっかりここが気に入ってしまって、大喜びで掃除など手伝っている。
ここしばらくは長坂通いが続きそうだ。
(しょーがない、オレはハンモックでも持参しようか…)
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7月25日(木) ブルーベリー
みなさん、パソコンやってて、目に疲れを感じることない?
私もかつては強靱な眼力を誇っていたのだが、寄る年波には勝てず、なんか疲れるときあるんだなあ…ディスプレーを見ているときなんか。
そこで思い出したのが、ブルーベリー。
目に良いって、どっかに書いてあった。
それで近所のスーパーで生のを1パック買ってきて、ポリポリかじり始めたわけ。
なかなかうまい。
ついでにインターネットで調べてみると、あの紫色の色素・アントシアニンが目にいいんだと。
即効性があるのだが、24時間しか効き目が持続しないから、毎日摂取するのがいいそうだ。
熱など加工にも強いから、ジャムなどにして食べるといいみたい。
それで思い出したのが、おともだちギャラリーの
まじょえんで買ったブルーベリージャム。
これが低糖で、つぶがプリプリしていて、とっても上等であった。
それでさっそく注文しようと電話したら、あいにく品切れとのこと。
う〜ん、残念。
まてよ、あれは確か青森産だったな…
ってわけで、今度は八戸のおともだちギャラリー
ハッシャゲニアに電話する。
「あのー、鎌倉のまじょえんで買った、あのおいしいブルーベリージャム、知らない?」
…と、突然きかれたって、ま、わかるわけないよな。
しかしさすが姉御肌のみつこさん、「いいわよ、私が南郷村へ行って買ってきたげる」と。
これがおとといの話。なんでも近在の南郷村がブルーベリーの里なんだそうだ。
それが今朝、宅配便でドサッと届く。
ジャムなど加工品のほかに、生果も。「チアキさんにジャムにしてもらいなさい」ってわけ。
それで、近所の農協から地元産の蜂蜜を買ってきて、スタジオの台所でぐつぐつ煮つめたのである。
けっこう簡単にできるもんなんだな、これ。
できたてを試しに昼食に食してみたところ、ウーム、なかなかいける。
つい、トーストに塗りたくって三枚ほど平らげてしまった。
(オレってけっこう甘党)
…ってわけで、今日は生果も含めて浴びるようにこの漿果を喰らったもんだから、夜中になっても目がぱっちり、たまらず雑記帳にまで記してしまったというわけ。
あっ、ごめん、こんな無駄話でアナタの目を疲れさせてしまって。
(でも、ブルーベリー、効くぜ!)
7月27日(土) カディ甚平
どんなシゴトにも役得てえもんがあるようである。
まあ私の場合たいしたこたないんだが、しいて言えば、いつのまにかいろんな実験的衣装が増えてるってことだろうか。
今日着用している甚平もそのひとつ。
甚平といえば、昔、母親に買ってもらったのがひとつあって、夏になるとそれを引っ張り出して着ていた。
どこにでも売ってそうな、そのいわゆる、オジンベイである。
あれは南国に行ったときなども、すごく重宝なもので、今年の冬もインドで毎日着ていたものだ。
自分ではすこぶる気に入っていたのだが、そのオジンベイぶりに真木千秋が哀れを催し、「あたしがいいの作ったげる」ってことになったわけ。
まあオレも断る義理はないから、じゃよろしくって言っといたのだが、それきりすっかり忘れていた。
今朝、お出かけに際して、なんか涼しい格好ないかなあと言ったら、「あっ、甚平あるよ」ってことになり、どっかから引っ張り出してきたのだ。
実際、この人のテキスタイルに関する記憶力はたいしたものである。(サイフなど日に何度忘れるかわかんないのに)
今春の渡印に際して作ったものだ。
うすねずの綿カディ製である。
右がその写真なんだけど、どうです?
なかなかよいでしょう。(ま、モデルもよいんだけどね)
手織生地だから着心地も上々。
ま、非売品だからね、「見るだけ」なんだけど。
チアキ自身はすごく気に入ってる様子。
実はここは小金井にあるチアキの実家。この写真は母親の真木雅子が写したもの。
父親の真木貞治から、「オレにも一着!」と早速オーダーが入っていた。
8月1日(木) 真夏のしつらえ for Men
昨日今日と、「超」がつくくらいの真夏日。みなさんいかがお過ごしのことであろうか?
冷房のない私の部屋など気温は35度になんなんとし(午後2時)、盛夏ここに極まれりの感がある。
こんな日、男性諸氏においては、綿のブリーフにビジネスパンツなんぞ穿いておられたら、陰金田虫に格好の繁殖環境を与えることにもなろう。
かかる高温多湿の時節には、南洋の人々に倣って、素裸ないしは褌一丁で暮らすのが一番。
しかしそこまで文明化していない我が国においては、ちょっと工夫が必要であろう。
そこで今日は、わがインド、織師たちのモードをご紹介しよう。
ご存じの通り、工房のあるデリーは、三月から気温は30度を超える。
六月ともなると40度以上の気温とともに、モンスーンの湿気が加わり、今の日本なんてもんじゃないのである。
そんな環境下、もちろん冷房なんて縁のない彼らは、こんな格好で過ごしているのである。
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上は綿カディのランニング、そして下はルンギだ。
ルンギというのはいわば腰巻き。一枚の布である。
その下はおそらく下着無しであろう。(確かめたことはないが)
だから陰金田虫という話もあまり聞かない。(ま、ヒンディー語で言われてもわかんないが)
私の着用しているこの「ルンギ」、じつはウチにあったモンゴルギリのストールである。
ルンギ用ではないので、ちょっと短い。
モンゴルギリというのはインドの手織・極薄綿 である 。現在青山店で開催中の「
夏の布」展でも使われている生地だ。
先日ご紹介した甚平のパンツより、開放的で涼しい。(これで下着無しなら更に開放的)
歩くごとに風が入って甚だ心地いい。
私はインドやバリ島で、よくこのいでたちで過ごしたものだ。
「やっぱりインドってすごいなあ。見てるだけでホレボレする…
」とはチアキの弁。
いや、私のことではなくて、この先染めモンゴルギリの生地のことである。
8月9日(金) せみしぐれ
昨夜は驚いた。
夜中の0時を回っても、まだセミが鳴いているのである。
アブラゼミだ。
それも一匹や二匹ではない。いっぱい。
あまりの暑さにトチ狂ったのであろうか。
みなさんの街や村ではいかがだったろう。
今、養沢の谷では、五種類のセミの鳴き声が聞こえる。
アブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシ、この三つは今現在(11:24AM)、ライブで鳴いている。
あとニイニイゼミとヒグラシだ。
一番最初に鳴き始めるのがヒグラシで、今年は7月6日だった。
毎年そのくらいに鳴き始め、そして一番早く鳴き収める。
私の一番好きなセミだ。
夕方涼しくなった頃、なんとなく物悲しい声で鳴く、その風情がいい。
少年時代の昔から、山や高原で耳にすることが多かったので、なおさら清涼感をそそる。
ただ、真木千秋はちょっと苦手かな。
というのも、夜明けの四時頃、朝の合唱セッションがあるからだ。
それがチアキの浅い眠りを妨げる。
反対に私の一番嫌いなセミは、ツクツクボウシ。
なぜ嫌いかというと、これもまた幼年期のトラウマに遡る。
すなわち、このセミは、故郷の信州にいなかった。
そして、東京では八月に入って鳴き始める。
小学生だった三十有余年前のこと。
両親と東京に住んでいた私は、夏休みになると、祖父母の守る
信州上田の田舎家に戻ったものだ。
そしてイトコたちと楽しい合宿生活を送るのである。
しかし楽しい時ほど早く過ぎ去るのは世の定め。
やがて、お盆も終わり、信州に早々秋風の立ち始める八月末になると、両親の許に戻らねばならぬ。
場所は東京の某区。狭くて暑い某社の社宅。
机に向かって、やり残した宿題をシコシコ片づける少年A。
ああもうじきまた学校か、やだなあ…
その背後で鳴きさんざめいていたのが、聞き慣れぬこのツクツクボウシであった。
ね、嫌いになったって、ムリゃないでしょう。