9月11日(土) Papaya!?
昨日、無事インドより帰還。
時差が三時間半あり、飛行機が四時間遅れ、なおかつ機内泊だったので、昨日一日は半死半生の体であった。
千秋の母親
真木雅子の松茸御飯と、
ぱるば実家から届いた巨峰とで、わずかに飢えをしのぐ。
ところで、今回のインドは、きっと端境期(はざかいき)だったのであろう、あまり果物は豊富ではなかった。
(たとえば王者マンゴーは春の果物)
スイカとかメロン、リンゴ、ブドウなどはあったが、こうした日本でも穫れる果物に関しては、農業技術の差もあるのだろう、一般に日本のほうが優っている。
それでもっぱら我々は、いつでも穫れる南洋の果物、パパイヤを食べることになる。
ビタミンCも豊富で良いのだ。
で、今朝、久しぶりに我が五日市の畑に行ってみると、なんとパパイヤが…! (右写真)
あるわけないよな。
色や形はそっくりだが、ヘタの部分がチト違う。
そう、これは過剰に生育したズッキーニなのである。
私が畑を留守にした十日の間に大化けしたらしい。
「店に展示しとけば」と近所の友人に言われたのだが、処遇は検討中なので、まずはここに掲載。
10月7日(木) 青山かいわい散歩 ― アジアン・エキゾチック
地下鉄・表参道駅から当スタジオへ向かうと、骨董通りに面して小原流会館がある。これは読んで字のごとく、華道・小原流の会館だ。
その地下がレストラン街になっていて、私たちもよく利用する。
最近、その街にちょっとおもしろそうな食事処が二つほど出現したので、突撃レポートを敢行。
その1・Yサイゴン
名前からも察せられるように、ベトナム料理の店である。
昼食時に行くと、「今、話題のフォー!」という表示が出ている。
フォー!? 聞いたことないなあ……ということで敬遠していたのだが、あるとき意を決して試すことにする。
これ、米の麺であった。言うなれば、ビーフンのきしめんかタリアテッレみたいなもの。
鶏、海鮮、ベジタリアンと三種あって、私は「山寺の味」と銘打たれたベジを選ぶ。
これがけっこうエキゾチックで楽しい。
別の容器で運ばれてくる魚醤と香菜をふりかけると、気分はまさに東南アジア。
ランチセットになっていて、ほかに生春巻とデザート、ドリンクがついて\1000。
雰囲気もしっとり落ち着いていて、おすすめかも。
東南アジアで花盛りの化学調味料を使ってない点も評価。
南青山 5-7-17 小原流会館B1 03-3406-9088 11:30-14:30/17:30-21:30 日曜休 HPはこちら
その2・SITAARA
これも名前から察せられるように、インド料理店。
なんでもインドの五つ星ホテル、オベロイが日本に初めて進出したんだそうな。
ランチタイムに行ってみると、ケバブセットとカレーセットがあり、それぞれにベジタリアンとノンベジタリアンがある。
ベジのカレーセットを頼むと、野菜カレーとダール(レンズ豆カレー)、ナンと御飯、それにドリンクがついてくる。
ナンはおかわりができるようだ。御飯はインディカ米(長粒種)でエキゾチック。
マンゴーのピクルスが付け合わせで出てくるのも嬉しい。
オベロイホテルから来た三人のインド人シェフが調理しているそうだ。
まだ二回しか食べていないが、ここで私の定番インド料理店・
ナタラジ青山店と比べてみよう。
料理の味に関しては、今のところナタラジに軍配が上がろうか。ナンやチャイにも一日の長がある。
しかし店のお洒落度はSITAARAが上。
特に全面禁煙なのが高見識。
ナタラジの場合、狭い店内で分煙もままならぬから、昼時に隣席のOLなどにスパスパやられると、せっかくの「自然派カレー」の風味も半減である。(だからOLやサラリーマンのいなくなる1時半過ぎに行くべし)
というわけで、この勝負、引き分けであろうか。
南青山 5-7-17 小原流会館B1 03-5766-1702 11:30-15:00/18:00-22:00 日祭休 HPはこちら
10月17日(日) はっと
今、岩手県の平泉。
展示会での来訪なのだが、毎度のことながら、餅を始めとする土地の伝統ディッシュがイケている。
「牛に引かれて」ならぬ、「餅に引かれて中尊寺」である。
昨晩はまた珍しいものを食した。
「はっと」である。
一種の「すいとん」だ。
こちらで『女わざの会』を主宰する森田珪子さん指導のもとに、体験夕食会があった。
甲州の「ほうとう」と同じく「はくたく」を語源とするものらしい。
一説によると、あまりにウマいので、昔の意地悪な領主が平民に対して御法度にしたゆえに、「はっと」なんだと。
当地で愛好される粉食である。
作り方はわりかし簡単。
南部地粉という当地の小麦粉を水でこねて、二時間ほど寝かす。
それをひとつかみ左手に取り、右手で薄く引き延ばしながら、ぐらぐら煮え立った湯の中に、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
いったん湯の中に沈んだ「はっと」が浮かび上がると、できあがりだ。
ちょうど餅のようなもので、いろんな食べ方をする。
昨夜はまず、カラシと生醤油で食べる。
シコシコした食感に意表を突かれる。
我々の知っている、いわゆる「すいとん」や「つみれ」とはだいぶ違う。
次いで、「粒あん」と「ずんだ」にからめたはっとが出る。
ずんだとは枝豆でつくった粒あんみたいなもので、美しい淡緑色と枝豆の香ばしさが特長だ。
あんころ餅やずんだ餅に相当するもので、あづきばっと、ずんだばっとと呼ばれる。
そのほかに、ごばばっと、かぼちゃばっと、くるみばっと、じゅねばっとなど、いろいろあるみたい。(じゅねとはエゴマのこと)
もちろん、山梨のほうとうみたいに、汁の中に入れてもいい。
これを「はっと汁」という。
じつはこのはっと汁、今度の「
MAKIの秋・竹の家篇」でやってみようかとの声もあり。
これだとみんなで楽しく火遊びができそう。
明日、南部地粉も5Kg竹の家に届くので、まずスタッフで実験してみることにしよう。
10月26日(火) 晩秋の信濃路・チェロコンサート
五日後の10月31日(日曜日)のことで、いささか差し迫っているのではあるが…。
信州上田のギャラリー月のテーブルにて、チェロのコンサートがある。
題して『群馬交響楽団のメンバーによる二台のチェロのデュオ・コンサート』
ちょっと長いが、要するに群響チェロ奏者二人による音楽会だ。
出演はレオニード・グルチンとファニー・プサルグ。
じつはこのグルチン氏、愚妹・田中惠子のチェロの師なのだ。
その縁でコンサートを開くことになる。
群響と言えば地方オーケストラの雄。
その主席チェロ奏者だから、きっとウデも良いことであろう。
信濃路の秋も深く、蚕室を改造した小さなギャラリーで、二台のチェロの音色に耳を傾けるのもまた一興であろう。
私もまた両親の顔を見がてら、今年の新米もゲットしようとの魂胆で、出かけることにする。
チケットの残数も僅少らしいので、関心のある方はお早めに連絡のこと。
10月31日 14:30開場 15:00開演
会場:月のテーブル 長野県上田市仁古田1577
料金:3000円
問い合わせ:0268-31-2134
追記(10/31) コンサートの模様はこちら
ところで、本件とはまったく関係ないのだが、最近、「HPの写真が見えませんっ!」という苦情を頂くことがある。
ことに竹林日誌に問題があるようだ。
あるいは、リンクをクリックしても飛ばないとか。そんな不具合が見られた場合、そちらのパソコン環境とともに、その旨お知らせいただくと、まことに有難い。
パソコン環境というのは、使用ブラウザ(NetscapeとかInternet Explorer)とそのバージョン、使用OS(WindowsとかMac)とそのバージョン等々。
それがわからない人は、とにかく、「見えません」とか「リンクが効きません」とか書いて、par99@itoito.jpまでご一報願いたい。
それではよろしく!
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リハーサルの様子。露人と仏人の二人は通常、英語でコミュニケーションを取るのだが、その間に日本語も交じっておもしろい。「お任せします」とか ― 。お任せされても困るなァという表情のファニー嬢。 |
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11月1日(月) 花のテーブル
昨日の
チェロ・コンサートには四十人ほどの人々が集う。
もちろん、ギャラリー「月のテーブル」にはそんなにたくさんの椅子はないから、近所の公民館から折りたたみ椅子を三十脚ほど借りてくる。
手作りコンサートなわけだ。
主催者である愚妹は人づかいが荒く、私は客の送迎とか駐車場係など、雑多な使い走りを仰せつけられる。
今朝は、軽トラに椅子を積み込み、川西公民館へ返却だ。
受付からいかにも人の良さそうなおじさんが出てきて、「あ、花のテーブルさんですね」とのたまふ。
「いえ、あの、月なんですけど…」と私。
ま、そんなヘンな名前をつける方が悪い。
今回、信州上田にやってきたのは、藍草の様子を見るためもあった。
今年の盆明け、インドへ行く直前に、真木テキスタイル総出で
生葉染めをおこなった。
その時いったん全部刈り取ったのだが、残った根から茎葉が生え、また染められるくらいに育ったのである。
しかし様々な雑事にまぎれ、結局、染められずじまい。
今は御覧の通り、花盛りである。
夜来の雨が滴となって花穂の先に玉をなす。
こうなってはもはや色も出まい。
よく見ると紅葉し始めている。
藍の紅葉も、藍色ではなくて赤色であるらしい。
いずれ種になるから、そのときにはまた採取に来ねばなるまい。
この藍畑の背景がブドウ畑。
さらにその先遙か浅間山が望めるはずだが、今日は残念ながら雲に隠れて噴煙を御紹介できず。
里のみやげに、米と柿、カボチャと大根とネギを車に積み込み、帰途につく。
(この野菜三種は、いずれも養沢では猿に狙われ、作るのに難儀するのだ)
11月17日(月) 檜原百年
今日は取材が入る。
NHKの「おしゃれ工房」。
母親の真木雅子(籠作家)がよく出ていたので、その御縁でのお話である。
この番組は、テレビと雑誌の二本立てだ。
なんでも、その中に「ようこそ我が家へ」というコーナーがあるらしい。
それで今日は雑誌の取材が我が家へ来訪となった。
どこのお宅でもそうだろうが、来訪者があると、家がキレイになっていい。
当家も昨日から、せっせと掃除に精を出す。
おかげで、まるで雑誌に出てくるみたいな家になる。
ただ困るのは、私の愛用になる日常雑貨類が容赦なく隠蔽されてしまうことだ。
カボチャ切り用イボイボ付き軍手とか、暖炉掃除用ゴム付きチリトリとか、祭壇点火用チャッカマンとか。
そのまま不帰の客となるものも。
原状復帰まではイバラの道だ。
ま、これもゲームの一環、致し方あるまい。
NHKの場合、打合せ・雑誌・テレビと三度の取材があるから、そのたびに家がキレイになり、かつ、そうした不都合が出来する。
ところで今日は稀に見る良い天気。
こういう日をきっちり「予見」するというのも、編集者のウデのうちなんだそうだ。
畑仕事のカットも欲しいということ。
どんな作業にしようかと考えていたところ、今朝方、近所の友人から差し入れがあった。
「檜原百年」の種だ。
この「ひのはらひゃくねん」とは、お隣・檜原村でこの百年のあいだ作り続けられてきたというエンドウ豆。
11月後半が播き時だ。
我々も毎年これを播いて、春にサヤエンドウとして食べる。
とってもおいしい。
おいしくて、全部食べ尽くしてしまうから、播く種がない。
それで、近所の友人に毎年、種を恵んでもらうのだ。
というわけで、これはちょうどいいと、檜原百年の種まきをした。
おかげで来春もサヤエンドウが食べられる。
雑誌は一月中旬発売予定。
12月21日(火) 失われた帛を求めて
これは本当にあったお話 ―
時は平成16年、12月の19日。
(つまりおととい)
登場するのは、東京中野在住の当スタジオスタッフ大村恭子。
十五本のショールを所有するという、本邦屈指のMaki布愛好者でもある。
さて、うららに晴れた日曜日、恭子は恵比寿の美容院までお出かけだ。
その日手に取ったのは、「神代楡(じんだいにれ)」という名の一本。
三谷龍二氏の同名シリーズからヒントを得た、織師泣かせの絹100%モノである。
新宿から山手線内回りに乗り換えて、恵比寿に向かう恭子。
日曜だったので車内も空いている。
ところが恵比寿のひとつ手前、渋谷駅で電車が立ち往生。
なんでも事故があったらしく、いくら待っても発車しない。
それでいったん下車して埼京線に向かい、でもやっぱり山手線にもどったりと、ゴタゴタしながら恵比寿に到着する。
美容院で髪を切り、それからあれこれ用事を足したり。
そのうち陽も傾き、なんとなく肌寒さを覚える。
そこでストールを、と思ったとき…
ない!
頭の中でいろんな考えが巡る。
たしか電車の中では手許にあった。
車内が暖かだったので、首から下ろして膝の上に置いた気がする。
きっと渋谷駅のゴタゴタの中で無くしたんだ…。
あれからもう五時間ほど経っている。
いったい私のあのストールは今どこに!?
隣に座っていたおばさんが気づいて届けてくれてたらいいんだけど…。
とりあえず、恵比寿の駅で駅員に相談してみる。
山手線の遺失物は一ヶ所にまとめられるそうだ。
その管理所に連絡を取ってくれたが、そういうものはないとのこと。
そのうち出てくる可能性もあるので、名前と連絡先を記入しておく。
それでもあきらめきれず、次の渋谷駅で下車し、内回りのホームに向かう。
もしかしたら誰かが拾って、ベンチの片隅とかに置いといてくれてるかも…。
ところが、そうしたものは一切ない。
空き缶ひとつ落ちていない。
わが武蔵五日市駅ならいざ知らず、都会のターミナル駅では、ひとかけらの不審物も許されないらしい。
もしやもしやに引かされて、電車の線路に目を遣る恭子。
近在の方はご存知であろうが、山手線渋谷駅のプラットフォームは大きく湾曲している。
ちょっと危ないのだ。
そして電車は頻繁にやってくる。
乗降客をかきわけかきわけ、深い奈落のような線路をこわごわ覗き込む…。
「あっ、私のストールっ!!」
思わず大声を挙げる恭子。
近くにいたお兄さんが思いきり不審な眼差しを浴びせかける。
なんと、あの「神代楡」が、山手線内回り二本のレールの間にうずくまっているではないか。
「あっ、あの、無くしたものが見つかったので…」と言い訳じみた独り言。
ほどなく次の内回り電車がやってきて、ストールの上に覆い被さる。
乗降客をかきわけて、駅員のもとに行き、事情を話す。
駅員は駅舎から長いマジックハンドを持ち出してくる。
電車が走り去ると、神代楡はその風圧で飛ばされ、今度は内回り線路と外回り線路の中間に移動している。
それを駅員が手際よくマジックハンドで拾い上げてくれる。
かくして、神代楡は恭子の手に戻るのである。
そして奇跡的なことに、キズひとつついていない。
山手線は三分に一本は発着する。
五時間と言ったら、内外あわせて二百本の電車が行き来したことであろう。
神代楡はそのたびに、あっちにユラユラ、こっちにフワフワしていたわけだ。
世の中、フワフワしているほうが良いらしい。
神代の昔から土に埋もれていた木の色だから、線路の敷石の色に溶け込んで、誰も気づかなかったのであろう。
年の暮れも押し迫る都会のターミナル。
電車の下にもぐり、風に飛ばされ、数時間、神代楡は何を思っていたのやら。
教訓:Makiストールを無くしても決してあきらめるべからず。きっとどこかであなたを待っている。(写真:恭子と神代楡)