Project Henchikurin Project Henchikrin BambooHouse" 竹林日誌2004,, BambooHouse Project Henchikurin Project Henchikurin

東京西多摩、秋川の清流を見下ろす崖上
築二百年の農家を舞台に展開する真木テキスタイルスタジオのお話。

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6月11日(金) ギー・ポット

 
竹の家には年に何度か、インドから航空便で荷物が届く。
 今週の初めにもひとつ届いたのだが、その中に、一風変わったものが入っていた。
 木製のバターポットだ。

 先月のインド滞在の折、真木千秋がみつくろってきたもの。
 パートナーのニルーは、織物のほかに、こうしたインドの伝統的な手仕事をこよなく愛している。
 それで、今回、わけてもらったというわけ。
 そう言えば先年、デリーを訪れた輪島の塗り師・赤木明登氏も、しっかりこれに目を付けて、いくつか手荷物で持ち帰ったものだ。

 今回届いたのは、全部で24個。
 ニルーの手許から良いのだけ選んだものだから、「チアキずるーい!」とニルーから文句が出たそうな。
 姉妹みたいな関係なのである。
 竹の家には既に二つ三つあったのだが、これだけ並ぶと壮観。

 インド北部、ヒマラヤのふもと、ヒマーチャル・プラデシュ州の産。
 50年以上前のものだそうだ。
 一本の木の幹をくりぬいて作ってある。
 もともとは、「ギー」すなわち精製バターを貯蔵したものだという。

 真木千秋が手にしているのが、一番小さい部類で、高さ約30センチ。
 手前にある大きいのが、約50センチ。
 肉厚で、ずっしり重い。
 青山店用にとはるばる渡来したものだが、「売るの、もったいないなあ」とつぶやく真木千秋であった。
 (でもこんなにいっぱいバターを貯蔵しても太っちゃうしね〜)


6月15日(火) 繭が来た2004

 Maki の年中行事になりつつある「春繭」。
 今日、それが竹の家に到来した。
 昨年は6月18日、一昨年は6月17日だから、毎年ほぼ同じ頃だ。
 生産者は八王子の長田さん。
 いつもは竹の家まで持ってきてもらうのだが、今年は私ぱるばが取りに行く。
 竹の家から15分ほどの近所だ。

 お話によると、上蔟が先週の月曜。
 上蔟(じょうぞく)というのは、蚕を蔟(まぶし)に移すことだ。
 蔟というのはボール紙でできた小さな小部屋で、その中で蚕は繭を作る。
 上蔟して五日ほどで繭が取れるそうだ。
 今年もそのうちの5Kgをいただく。
 5Kgでだいたい着尺一反分の糸が採れるそうだ。
 上の写真は、Maki 用の繭を袋に移す長田夫妻。
 父親の股間からこちらをうかがうのは、次男・悠汰くん(一歳四ヶ月)

 傍らには、導入したばかりの「ロータリー自動収繭毛羽取機」がある。
 中古なんだそうだ。(写真下)
 しかし漢字が難し過ぎて、どう読むのかよくわからない。
 要するに、蔟から繭を取り出し、繭まわりのケバまで自動で取ってくれるらしい。

 真剣な面持ちの誠二氏の手許にあるのが、蔟(まぶし)。
 四角い小部屋が切ってあって、その中に蚕が繭を作る。
 それが機械を通る間に、繭が外され、きれいにケバを取られ、左下に落ちてくる。
 (写真をよく見ると落下中の繭が写っている)
 そして、手前に、空の蔟が押し出される。
 この収繭&毛羽取の作業は、昨年までは手動だったわけだ。
 今まさに収穫の真っ最中。

 おみやげに、ケバから紡いだ糸と、真綿から紡いだ糸をもらう。
 奥さんの晶さんはなかなか研究熱心。
 当スタジオも今週は山口和宏展の準備で多忙だが、来週からは糸取りの日々が始まる。

****

 一ヶ月後の附記(7/15)

 先日、誠二氏からメール添付で写真が届いた。
 春繭の写真で、いずれも携帯電話機で撮ったもの。
 画像に手を加えず、そのままご紹介することにしよう。

 上の写真(上から3番目)は、蔟(まぶし)に蚕が繭を結んだところ。
 長方形の区画の中に、白い繭がキレイに並んでいる。
 これを上掲の収繭機にセットして、繭を取り出すのだ。
 下写真は、蔟を手にする次男・悠汰クン。
 なんとなく養蚕が好きそうではないか…というのはオヂの欲目か!?

 しかし、最近のケータイって、よく写るものだ。
 誠二氏のもn百万画素だとか。
 氏はこれを畑仕事の最中も常時携帯し、折に触れて、パチパチやるらしい。
 先日お邪魔した際も、ムカデとかトカゲとか、いと怪しきものの接写画像を見せてくれた。(皆さんから御要望があれば、氏に頼んで掲載いたすが…)

 そんなこんなで、せっせと野良稼ぎをしていると、やがてケータイから「待ちぼうけ♪」の着信音 ― 。軍手をとって電話に出ると、「アナタ、お昼よ」と愛妻からコールが…。
 なんて感じで、楽しく農業やっていそうな長田家である。

 ちなみに、先月いただいた5Kgの繭は、Maki の女衆の手によって引かれ、美しい糸になってスタジオを飾っている。
 その作業の風景は、おそらく三日後(7/18Sun)の朝日新聞朝刊に載るであろう。


6月16日(水) 添へもの

 
月のない養沢の谷。夜のしじま。
 聞こえるのは川のせせらぎ、カジカガエルの声、トラツグミ、ホトトギス。
 (ホトトギスは夜も啼くのである)
 真木千秋は夜なべに励む、灯火の下。

*  *  *

 今春、四国・松山の某ギャラリーで、良いものを見た。
 額に入った古裂だった。
 欲しかったが、非売品とのこと。
 山口和宏さんの額だった。

 そこで今般の展示会にあわせ、山口さんに額を作ってもらう。
 ナラ材でできている。
 材の厚みといい、カタチといい、たぶん余所では見られまい。

 本来は額だけで展示すべきものであろうが、ここはちょっと花を添えてみることにした。
 中に布を入れてみる。
 千秋が手にしているのは、さきほど織り上げた「残糸布」。

 アトリエには、どうしても捨てられない残糸が山とある。
 たとえば、藍の生葉で染めた春繭の座繰り糸とか。
 10cmにも満たないようなそんな残糸を、つなぎあわせ、ねじりこんで織る。
 残糸という性格上、織のデザインを考えるわけにはいかない。
 感覚に任せて、糸から糸へと進む。
 そこから生まれてくるのは、残糸でしかできない織物。
 そして、糸を最後の最後まで使えたという満足感。

 こうした残糸布や、他の小品を入れてみる。
 布を楽しむひとつのヒントだ。
 写真などを入れてもいい。

 明日は青山から、展示会直前レポートをupする予定。
 できたての山口作品もご紹介できると思うので、お楽しみに。
 


6月21日(月) 手仕事紀行

 
朝日新聞の好評シリーズに、「手仕事紀行」というのがある。
 毎週日曜の生活面に連載されているものだ。
 初回の四月には、岐阜「ももぐさ」の安藤明子さんが紹介されている。
 そして来週日曜からは、当スタジオの真木千秋が四回にわたって登場する予定。
 その取材が今日あった。

 おりしも、大型で強い台風6号が列島に襲来。
 現在(4pm)は近畿地方を通過中らしい。
 豪雨の中での取材である。

 写真は繭から糸を引いているところ。
 先日、八王子の長田さんから譲ってもらった春繭だ。
 左端に私が写っているが、別に傘をさして大雨を眺めているわけではない。
 これはストロボの反射傘であり、それが風で飛ばないよう、雨に濡れつつ支えているのである。
 もし朝日新聞紙上で真木千秋が涼しい顔で糸を引いていたとしたら、その裏にこうした涙ぐましい努力のあったことを思い起こしていただきたい。
 ただ、今日くらい湿気のあったほうが良い糸が引けるのである。
 蚊も出てこないし、意外に快適。(明日は台風一過で34℃の予報だし…)

 右端は記者の大村美香嬢。
 私の学校の後輩にあたる。(すなわち同じ自動車学校で免許を取ったのだ)
 三年ほど前「旅する記者」としてインド・ビハール州のタッサーシルク産地を訪ね、かの伝説的な名記事をものした人である。
 この大村嬢が記事を書いてくれると真木千秋も安心。
 なにしろヤマタノオロチかキマイラかと言われるほど、当スタジオの布を愛用しておられる御仁だ。
 (つまり首がいくつあっても足りないということ)
 フォトグラファーは若手の吉澤良太氏。これまた熱心な人であった。

 というわけで、次の日曜、6月27日には朝日新聞に注目!


7月10日(土) 夏の夜のちくちく

 
連日の猛暑の中、ミンミンゼミの鳴き始めた養沢の谷。
 関東地方の梅雨明けは平年で7月20日前後だが、三年前には7月11日に明けている。
 今年はどうなることやら。

 さて、月の支配を受けて生きている真木千秋。
 一日が24時間と40分だから、どうしても活動が夜にずれこむ。
 今夜はリビングで針仕事だ。

 実は先週、三重・而今禾(じこんか)の西川/米田ご両人が竹の家を訪問。
 而今禾というと、今いちばんホットなギャラリーのひとつだ。
 先日も「主婦と生活社」から、『おいしいをつくるもの ― 而今禾の道具たち』という洒落たフォトブックが出版され、これがなかなかの売れ行きだそうだ。(写真上)
 きれいな本だから、お手にとってご覧になるといい。

 この而今禾、Maki の展示会も力を入れてやってくれるのである。
 今年も11月に企画されているのだが、その相談に訪れたというわけ。
 今回は少々趣向を変えて、「活動的な服装にちょこんと身につけたくなるようなマフラー展」などいかがなものだろう…。

 ちょうどアトリエの機(はた)にタテ糸がかかっていたので、夜な夜な杼(ひ)をあやつる真木千秋。
 そうして細幅の布を幾つか織り上げる。
 その布と、タッサーシルクの布を、今度はチクチクと縫い合わせてるのだ。

 写真の茶色い部分がタッサーの布。
 それをリング状にして、その両端に細幅の布をあてがう。
 縫い終えたら、ヒミツの手法で縮絨させる。
 (ヒミツと言っても、40℃くらいの温水の中で湯浴みさせるだけだが)

 そうして、ちょこんと肩の上に載せるマフラーができあがる。
 一枚一枚違ったものになってしまうが、それもまた良かろう。
 さてどんなものになるのか。
 季刊『住む』の次号に掲載されるかもしれないから、興味ある人はご覧あれ。


8月6日(金) 昼下がりの協議

 
八月のある昼下がり。
 降りしきる蝉しぐれの中、竹の家の一室にスタッフが集って協議している。
 真木千秋がモデルになって、パタンナーの太田綾がスカートを着せつける。
 背後から、青山店長・大久保すみ子と、衣担当・大村恭子がアツい視線を送る。
 (冷房が無いからなおさらアツい)
 ただいまの議題は、ナーシ・スカートのウエストをどう処理するかということ。

 あと二週間少々で、夏のインド渡航だ。
 夏のインドと聞くと、いと凄まじき炎熱地獄を想像するが、首都デリーはこの時期、今の東京よりちと暑いくらいかな。
 ただ、雨期なので、湿度は高い。
 今、その渡航準備でおおわらわである。

 スカートは三点ほど新しく企画しているが、そのひとつ、「ナーシ・スカート」。
 その名のごとく、タッサー・ナーシの生地を使って、布を楽しもうというもの。
 真木千秋いはく、「わりとエレガントで、タイト」。
 前の部分にスリットが入っている。
 スリットの部分に、別様のナーシ生地をハギ合わせ、変化を持たせる。

 協議の結果、ウエストにはゴムを通し、ヒモを後ろだけたたいて、前で結ぶ仕様にする。
 「たたく」というのは業界用語で、すなわちミシンでたたいて縫い付けるという意味。
 あらかじめギャザを寄せておき、上からヒモでしばるのだ。
 こうすると、小さい人にも大きな人にも具合良いのだという。

 協議の結果をふまえ、太田綾が自宅に持ち帰り、週末に作業をする。
 ミシンでたたいてサンプル作成をするのだ。
 下写真は寸法を測る太田。(鏡の中の小像にも注目)。
 自宅には、職業用ミシンと四本ロックという二柱の美神(みしん)が鎮座している。
 このほか、「二重ビームタックスカート」および「ヨーク切り替えスカート」の二種を企画中。
 ただし、週末でもあるし、もうじきお盆だし、どこまでできるかは、神のみぞ知る。

 協議の最中、どういうわけか、
 「北九州って何県だっけ」
 「鹿児島県?」
 「北九州県?」
 などという不穏な発言も飛び出す。
 当スタジオの前途も険しいものがある。
 真夏日の打ち続く八月のある日、昼下がりの協議であった。

8月17日(火) 藍・生葉染め2004

 
昨16日、信州上田の田中ぱるば実家にて、夏恒例の藍生葉染め。
 これは読んで字のごとく、藍の葉を発酵させず、生のままで染めることだ。
 藍建て(発酵)とは違った、生葉独特のフレッシュな色が染まる。
 生の藍葉がないと染まらないから、当スタジオの農事環境では、8月、9月がシーズンだ。

 今年は五日市で藍を育てなかったので、ここ上田が頼みの綱。
 東京から駆けつけたスタッフ二人と、田中家の面々、それに近在からの応援も得て、にぎやかに作業する。
 実は数日後の22日には渡印するので、そのための準備なのだ。
 インドでのストールづくりには、生葉で染めた絹糸が必須なのである。
 五日市のスタジオから、春繭の糸赤城の節糸、バンガロール糸(インド)など、四種の絹糸を持参する。

 上写真は今年の藍の様子。
 野草のタデと外見がそっくりなタデ藍だ。
 植え付けがやや遅かったのと、雨不足のせいで、生育がイマイチである。
 鎌を手にしている金髪娘は、わが姪っこの明緒(アキオ)。
 何が楽しくてみどりの黒髪を金色に染めるのやら…。

 生葉で美しい色を出すには、陽光が必要。
 昨日は幸い、作業開始の頃から日が顔を出す。
 標高は485m。日本でも有数の乾燥地である。
 爽やかな夏風が快適であった。

 中写真は染め上げた糸カセを洗う真木千秋。
 盥(たらい)にあふれる水は、近くの小川からポンプアップしている。
 水がふんだんに使えるのは嬉しい。
 この盥もかつて養蚕に使ったものだという。
 すなわち、幼齢の蚕に桑をやる際、この盥で洗って小さく刻んだのだそうだ。
 こうした木製の古い道具類を使うと、また色に一段と深みが出るのである。

 藍草が小振りだったので心配したが、昨年よりも濃い色が出たようである。
 成長が遅かった分、きっと色素が濃縮されたのであろう。
 下写真が染め上がった絹糸。
 これを、今週末、インドに持参するのである。
 さあどんなストールをつくろうかな〜♪ と思案の真木千秋。

 ついでに米やカボチャなどを恵んでもらって帰途に就く。
 (五日市のカボチャはみな猿に食われた)
 ぶどう(巨峰)もすくすくと育っているようであった。

9月17日(金) アライ・ラマ近況

 
昨年、青山店で大いに盛り上がった「新井淳一展」から早一年。
 あれから新井氏はどうしているだろう…。
 ということで、浅間山の粉塵がうっすらと車上に降った今朝、久しぶりに上州桐生へと向かう。

 新井氏、ますます精力的に製作に励んでいる様子である。
 上写真は、市内・有隣館に展示中の作「メタルスタイルにおけるプリミチブ」。
 素材はナイロンやポリエステル、アルミ、チタンなど。
 枯山水を思わせるこの作品、中央に写っている真木千秋と比べるとそのサイズがわかるであろう。(総重量はわずか5kgほどだという)。
 先日まで千葉の市立美術館に展示されていたそうだ。

 有隣館というのは、千坪を越える敷地内に点在する蔵群。
 かつて近江商人が興した醸造所の跡だそうだ。
 木造やレンガ造りの塩蔵、酒蔵、味噌蔵、醤油蔵など、なかなか壮観である。

 今はイベントスペースとして使われているこうした蔵々の中に、十人ほどの作家による「ファイバー・アート」が展示されている。
 作品自体は玉石混淆だったかな。
 ファイバーでアートするって、なかなか難しいようである。
 数百年も塩が積まれていた塩蔵など、「ちょっとやそっとの作品じゃ太刀打ちできない」(新井氏)

 下写真は味噌蔵の前で新井氏と真木千秋。
 この中に氏の作が渦を巻いている。
 スペース自体はじつに味があるのだから(味噌や醤油だし)、氏はいつか自分のプロデュースで布の展示会をやってみたいという。

 9月11日〜23日 有隣館
 桐生市本町2-6-32 TEL0277-46-4144 入場無料


9月21日(火) 明日から真南風

 
今、午後五時半。
 場所はMaki 青山店。
 明日から始まる『真南風(まあぱい)』展に向けて、朝から展示作業が行われている。

 今回で六回目の真南風。
 ご存知でない方のために、ちょっとご説明いたそう。
 「まあぱい」とは八重山諸島に吹く風のこと。
 八重山とは、石垣島や西表島、竹富島などを中心とする沖縄最南端の島々だ。

 この西表島で「紅露工房」を主宰する、染織家の石垣昭子さん。
 それから神奈川・葉山で「afa」を主宰する、服飾デザイナーの真砂三千代さん。
 そして当スタジオの真木千秋。
 この三人が集まって、「こんな服があったらいいね」とつくったのがこの真南風だ。
 (立ち上げ当時の模様はこちら)

 今回は初めての「秋展」なので、新しいアイテムも数点加わる。いくつか御紹介すると;
 
 「長じゅばん」 着物からイメージしたワンピース。別名「ブータン・ドレス」。
 「キモノ」   これも着物からイメージしたジャケット。羽織と着物の中間。
 「衿じゅばん」 スディナをアレンジした短い上着。真南風では初めて裏地をつけてアワセとする。
 「まえかけ」  読んで字のごとく、エプロン。

 そのほか、ハオリ(お尻までの上衣)、サラリ(チョッキ風)、ドゥンギ(タンクトップ風)、パー(はかま風)、腰巻、スディナ(沖縄風キモノ)など、13品目、130点余りが展示される。
 写真は真砂三千代さん(右)と真木千秋が「長じゅばん」の展示作業をしているところ。
 長年一緒に仕事をしてきたから、なんだか姉妹のようだ。
 「真南風だけやってられればいいのにね〜♪」とは三千代姉の言。


9月29日(水) 繭が来た2004・秋

 
竹の家に繭が来た。
 ここ毎年、来ているのだが、秋は初めて。
 おなじみ、東京八王子の養蚕農家・長田家から5kgだ。
 写真の手前がその繭。
 その背後にいるのが、長田家の奥さん晶(あきら)さんと真木千秋。
 今年の春繭を使ったストールを晶さんに披露しているところ。

 秋の繭は、はるごに比べてだいぶ小さい。
 (春の蚕を「はるご」、秋の蚕を「あきご」と言う)
 品種も違うのだが、秋の桑はあまり美味しくないので、蚕が大きくならないのだという。
 だから、糸も細く、繭も小さめだ。
 Makiは一般に春繭を好むが、繊維の細い秋繭からは、また風合いの異なった糸が採れるはずである。
 真綿を作る人は、むしろ秋繭を好んだりもするようだ。

 真綿と言えば、今月下旬「竹の家オープンハウス」で、この長田晶さんが真綿からの糸取りを披露してくれる。
 関心ある人はぜひ足をお運びいただきたい。(10月24日 13:30〜 詳しくは来週あたりup!) 
 また夫の誠一氏は今月21日、八王子で開かれるシルクサミットのシンポジウムにパネリストとして参加する模様。
 「何を言い出すかわからない」と奥方は心配顔であるが、こちらも関心ある人は出かけてみると面白そう。
 (当の誠一氏にとっては、演台に「スーツで出るか作業着で出るか」が目下焦眉の問題らしい) 

 実は一昨日の夕方、NHKの「首都圏ネット」でこの長田家の様子がじつに9分間も放映されたのである。
 これがなかなかの傑作。
 なんでも、二人は恋愛結婚であるそうだが、養蚕農家だということを晶さんは知らなかったとのこと。
 はたして誠一クンは晶嬢をいかにゲットしたのであろうか!?
 おそらく大方の皆さんは勤労中で見逃したであろうから、これも「竹の家オープンハウス」でビデオ上映いたそう。

 というわけで、今、世間の耳目を集める長田家である。
 ところで、皆さんの中にも自分で繭から糸を引いてみたいと思う方もおられるであろう。
 私の知る限り、繭を手に入れるには、たとえば西陣の糸屋とか福井の絹繭からということになろうか。
 しかしながら、いささか高価である。
 というわけで、できたての繭を格安で届けてくれる長田家はまことに有難い存在である。
 この長田家では晶さんの手でホームページも開設している。ただし今のところ繭の直販はしていない模様。


10月10日(日) 蔓が来た

 
台風一過ではあるが、一向に晴れ上がらない今日10月10日。
 午後になって、千秋の母親である籠作家真木雅子が大風呂敷をひっかつぎ、ここ養沢のアトリエに現れる。
 真木雅子に大風呂敷とくれば、中味はだいたい想像がつく。
 蔓(つる)だ。

 リビングの一角に大風呂敷を広げ、何やら作業を始める真木母娘。
 本日の蔓は山帰来(さんきらい)。和名をサルトリイバラと言う。
 東南アジアの産らしい。
 太さ1cmにもなんなんとするこの蔓、そう簡単には曲がらない。
 それであらかじめ一昼夜水に漬け、さらに一昼夜暴風雨に曝しての到来である。

 今週末から始まる展示会、Makiの秋に向けての準備作業だ。
 この山帰来の蔓で展示用の「蔓型」を作っている。
 いわゆるマネキン人形の代わりで、この蔓型にストールや衣を羽織らせるのだ。
 人形よりも蔓型のほうが情趣に富むので、Maki はもっぱらこれを使う。
 ただし山帰来でつくるのは今回が初めてだ。

 この植物にはトゲがあるので、千秋がそれを除き、真木雅子が形を構成する。
 今日は二十個つくるそうだ。
 写真は嬉しそうに母親を指さす真木千秋。眼鏡を二枚重ねているのが可笑しいのだそうだ。娘というのはえてしてつまらないことに喜ぶものである。


10月15日(金) Makiの秋 in 青山

 
本日より、青山店でMakiの秋 展示会。
 通常、青山で展示会を催すときには、私ぱるばも前日から青山に入って直前レポートを掲載するのであるが、今回はそれが果たせず。
 というのも、一週間後には「Makiの秋」が竹の家に移るので、そのために竹を切ったりしていたのだ。
 ところが昨夜、青山で展示作業中の真木千秋から電話があり、「とっても充実してるからぜひ見に来て!」という。
 そこで朝早く起き、おっとり刀で、店の開店前にかけつける。
 おりしも抜けるような青空。やっと秋の長雨も終わったようだ。
 それでは店内の模様をお伝えしよう。

 泊まりがけで展示作業の真木千秋。手にしているのは「あめつち」赤系のストール。
 卓上には、今回の展示会のために織り上げたストールの数々が並ぶ。
吹き抜けの空間を舞う
「天地(あめつち)」の反物。
 1〜2点しか織っていないストールも。
 いろんな事をやりたかったので、ヨコ糸のパターンを頻繁に変えたのだ。
 ここに写っている四種のストールは、いずれも「ギッチャ格子」と呼ばれるもの。(上から垂れているもの一点と、手に持っているもの三点)
 タテ糸は同じだが、ヨコ糸の違いで、表情が違ってくる。
 また縮む糸の使用により、幅にもバリエーションが出る。
二階の壁面。

左・ギッチャ格子ストール/くるり衣の一種/パッチスリットスカート

右・カンテクロス縮絨ストール/ナーシかぶり衣/パッチポケットのパンツ
先日↓真木雅子とともに作った蔓型が活躍。

左・カティア絹を使ったギッチャ格子のストール。

右・パッチスリット入りスカート。

10月20日(水) 台風のあいだをぬってMakiの秋

 
今日は超大型台風の23号が列島を縦断。
 台風大好きの私(ぱるば)であるが、今回ばかりは安閑としていられない。
 というのも、明後日から「Makiの秋 ・竹の家篇」が始まるからだ。
 一年で一番忙しい時期なのである。
 空模様をにらみつつ、寝食も忘れず準備に没頭。
 昨日などは「雨の降り出す前に…」と、朝の七時前から出勤して竹コップづくりだ。
 (写真上のザルの中にあるのが完成品で、お客さんにはひとり一個進呈している)
 はたして天気予報のご託宣通り、九時過ぎには雨が降り出し、爾来、32時間にわたって降り続いている状態である。
 しかし、台風の襲来が今日でよかった。
 二、三日ずれていたら…。
 でも心配ご無用、竹の家には囲炉裏が切ってあるのだ。
 雨が降ったら囲炉裏の端で、火にあたりつつ、みんなで鍋でも囲めば良い。
 
 今日は準備も大詰めだから、雨の中、近所から若い助っ人たちも駆けつけてにぎやか。
 雑用が山ほどあるから有難い。(写真下は美大生に端裂の始末を教える真木千秋)
 また日本各地から差し入れも届く。
 山形からサクランボの梅干しとラフランス、福岡からパンといった具合。
 サクランボの梅干しというのは、サクランボを梅と同じ要領で塩漬けしたものらしい。
 ありがたく昼御飯に頂戴する。
 初めて食べたのだが、梅も桜も同じバラ科の植物なので、そんなに違和感もない。ややフルーティな梅干しという感じ。
 昼食が終わったと思ったら、真木千秋はじめ女衆、さあこれから試食会だという。
 何を試食するのかと思ったら、「Makiの秋」で供する七穀雑炊だそうだ。

 雨だと外仕事ができないから、私は部屋にこもって編集作業。
 今回はパソコンでスライドショーをしようと思っている。
 ここ二年ほどの間に撮りためた二千有余枚のデジタル写真から厳選して、Maki Textileの知られざる実態をみなさんに暴露しようというもの。
 BGMもつけねばならないから、これがなかなか手間のかかる仕事なのだ。
 さて、当日までに間に合うか!?
 

10月21日(木) Makiの秋「竹林篇」前夜

 
今朝起きてみると、空がどんよりと曇り、雨もぱらつく。
 前回の台風21号の後も、やはり雨続きだった。
 最近、どうも台風一過の青空がおがめない。
 もしかして台風も一家離散したのだろうか…

 というわけで、明日からMakiの秋 「竹林篇」。
 ここ東京・西多摩も、午後から空も晴れ渡り、気持ちの良い準備日和となった。
 写真上は、入口に立てる旗。
 これは通常「小布つづり」と呼ばれている反物だ。
 綿のタテ糸にタッサーのヨコ糸が秋の陽に金糸のごとく映える。
 これは都道「秋川街道」に面した入口。
 車で来る人は、これを目印にしていただきたい。
 ただし、駐車場は「竹の家」内ではなく、向かいの「あきる野ケアハウス」前の広場なのでお間違えなく。
 歩行者用の入口には、白と紅露色の旗が立っている。
 天気が良かったら、駅から秋川沿いに歩いて来るのが気持ちいい。

 お昼には、今日もまた七穀雑炊の試食会がある。
 私も初めてありついたが、なかなか美味しい。
 一杯150円だそうだ。
 岩手から南部地粉も無事到着し、さっそく南部名物はっとも実験。
 初めてであるが、わりあい上手にできている。
 これは雑炊にオプションで入れることができる。(無料)
 ついでにお茶も無料(竹コップ付)であるから、竹の家にたどりつきさえすれば、150円あれば飢えと渇きは癒されるのである。
 (それすらない人は私に相談のこと)

 下写真は夕方、入口のしつらえをしているところ。
 じつはこの垂れ布の下が室(むろ)になっていて、その中に先日、真木千秋が転落したのだ。
 それでお客さんが落ちないようにと、竹を組んでいるわけ。
 みなさんゆめゆめ、布を見ようと竹組の間に踏み行ったりしないように。
 というわけで、明日から三日間、天気も良さそうだし、どうぞご来場の程を。
 


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