6月14日(水) 着工

 関東甲信が梅雨入りして六日目の今日。
 ここ竹の家では、ついに「竹林shop」が着工!

 まずは地鎮祭。
 神主ならぬ森屋棟梁と、真木千秋そして田中ぱるばが、工事の無事を祈って、おごそかに執り行う。
 敷地の四隅に、まず棟梁が一礼して塩をまき、次いで真木千秋が米をまき、最後に私ぱるばが酒を注ぐ。
 (写真上・米をまく前に一礼する真木千秋。私が手にするのは地酒「喜正」上撰の四合瓶)
 最後に、残りの酒を、棟梁およびMakiスタッフ一同でいただく。
 なかなか美味であった。

 梅雨時というのは、大工仕事には難しい時期だという。
 木材が濡れて、狂いを生じやすいのだ。
 「大工殺すにゃ刃物は要らぬ、雨の三日も降ればいい」
 …というわけで、雨の降らぬ間は貴重。
 さっそく作業にかかる森屋建築の一行四人。
 藪を切り払い、基礎を打つ準備にかかる。(写真中)
 真ん中で指示を与えるのが森屋棟梁。
 棟梁を含め三人は十年前のアトリエ改築時からのお馴染み。
 新しいひとりは棟梁の長男だ。

 入梅と同時の着工だから、おそらく工事期間も通常より長目であろう。
 一時ささやかれた「8月オープン」はちょっと無理そう。
 ともあれ、まずは目出度い。


6月16日(金) 春繭2006

 昨日、八王子の養蚕農家・長田家の若夫婦が、繭5kgを届けてくれる。
 待ちに待った、できたての春繭だ。
 Makiにとっては今や欠かせない素材である。
 なんでも今年の繭は、若夫婦が跡を継いでから最高の出来だという。
 ふくふくした真っ白な繭である。

 そこで日の改まった今日16日、スタジオ総出で糸取りだ。
 朝から繭を200gずつ煮沸。
 それを糸取り機の横に据え、モロコシボウキでなでさすりつつ、左手でゆっくりハンドルを回す。
 そうして引いた糸を、糸枠に巻き取る。
 みんな真剣な面持ちだ。
 写真手前から、大村、松田、千秋、三田。
 五十個ほどの繭から一本の糸を引くわけだ。

 写真左奥の三田は、糸カセを作っている。
 カセ上げ機を使って、糸枠から糸を巻き取るのだ。
 この作業も、迅速さを要求される。
 糸の湿っているうちにカセ上げしないと、手引き糸特有のウェーブが失われてしまうからだ。

 下写真がカセ上げされた糸。
 糸の微妙な波打がご覧いただけよう。
 この状態で染めを施し、またときには無染のまま使用する。
 新作紹介などでよく出てくる「Makiの座繰り糸」というのが、コレである。

 本日は数時間かけて2kgほど煮繭し、15ほどの糸カセができる。
 梅雨空のもと、座繰り作業は続く。

6月19日(月) 藍草園

 信州上田、田中ぱるばの実家。
 梅雨の合間をぬって、藍草の定植をする。
 五月初めに播種したものが15cmほどに成長。
 苗床から移しては、ひとつひとつ間隔を取って植えていく。
 藍草は比較的強靱なので、移植作業もそれほど気を使わなくて良い。

 恒例の「藍・生葉染め」に使う藍草だ。
 Makiの生葉染めは、手前味噌ではあるが、色が美しいと言われる。
 その理由として、ある海外の藍研究者いはく、「生葉染めの際に使う水の水温が低いせいではないか」と…。

 私が思うに、この地の風土も影響しているのではないか。
 すなわち、ここ信州上田は本邦有数の乾燥地で、昼夜の温度差も大きい。
 また当家の土壌は、上写真を見てもうかがえると思うが、強粘土質だ。
 そのせいで、たとえば、当地で採れる巨峰の糖度は無類に高い。
 同様に藍草の藍度も高いのではあるまいか。

 移植した後、堆肥を施して終了。(下写真)
 オーガニックな藍草である。
 なにも藍まで有機栽培にこだわる必要もあるまいが、ここ「田中農園」は上質の堆肥が豊富に手に入るという恵まれた環境にある。
 (近所のキノコ屋さんがキノコ栽培後のオガクズを届けてくれる)

 今年は天候にも恵まれ、藍草の育ちも上々だ。
 あと一月もしたら、第一回の生葉染め大会ができるかも。
 今、座繰りしているMaki糸↓などを、この藍草で染めるのである。
 (看板の用意もできている)

6月24日(土) 赤城山麓

 昨23日、上州・赤城山麓の富士見村を訪ねる。
 糸繭商の石田明雄さんから座繰り糸を分けてもらうためだ。

 かつて日本全土で農家の副業として営まれていた絹の座繰り。
 現在ではただ一ヶ所、群馬県の赤城山麓で細々と続くのみになった。
 その元締めである糸繭商も、わずか一軒を残すのみ。

 糸繭商というのは、原料となる繭を引き手(多くは農婦)に渡し、糸を手引きしてもらい、それを買い取る業者だ。
 その最後の一軒が、石田明雄さん。
 日本および外国産の繭を仕入れ、近在の「オバチャン」たち三十人ほどに給して、糸を座繰りしてもらっている。
 (右上の写真は倉庫に山積みされた繭袋)
 そうしてできた糸が、「赤城の座繰り糸」。
 石田氏によると、座繰り糸は、本糸(ほんし)と節糸(ふしいと)の二つに大別される。
 本糸というのは、上等の均一な糸。
 節糸というのは、その名の通り「節」のある糸だ。

 繭は、上繭からクズ繭まで、十等級ほどに分かれる。
 本糸は上級の繭から引かれ、繭が下級になるほど糸に節が生じるようになる。

 節は必ずしも悪いものではなく、ひとつのアクセントとして珍重もされる。
 下級繭の混合率が高いほど、節の出現率も高くなる。
 その辺も糸繭商の手腕のひとつだ。
 オバチャンのクセや、顧客の好みを勘案しつつ、繭のブレンドを微妙に加減するのである。

 一口に本糸・節糸と言っても、太さや形状は多種多様だ。
 機械で繰った糸にはない味わいに、愛好者も多い。
 そのほどんどは和装用の反物に使われるそうだ。
 Makiもここ数年、様々な赤城座繰り糸を使わせてもらっている。
 そうした糸も、石田氏がいるからこそ、手に入るのだ。
 左上の人物が石田氏。
 いつも楽しそうに仕事している。
 きっと天職なのだろう。
 最近は氏の周囲に後継者とおぼしき人々も育ち始めているようだ。

 右下写真は、そうしたひとりに座繰りの手ほどきを受ける真木千秋と服部謙二郎。
 石田氏の倉庫には仕事場も併設され、若い人たちが糸を引きにやってくる。
 ちなみに服部クンは某美大の院生。竹の家で糸取りや染めなど手伝ってくれる。
 午後はスタッフの案内で、オバチャンのひとり、「ふさこ」さんを訪ねる。
 村内の老農婦だ。
 自宅の一角にある納屋、時間が止まったような静かな環境。
 昔ながらのへっついに鍋をかけ、薪の火で煮繭し、ひとり静かに糸を繰る。

 もう三十年この仕事をしているという。
 今年喜寿を迎えるというふさこさん。
 娘時代に母親の姿を見て座繰りをおぼえたそうだ。
 糸引きは指先の仕事だから、目を使う織りの仕事と違い、視力が衰えても続けることができる。
 
 絲あってのMaki Textileだ。
 みなさんにも末永くお元気でいてもらいたい。

6月27日(火) 上棟式

 
着工して二週間の竹林shop。
 今までのところ天候にも比較的恵まれ、本日めでたく上棟式と相成った。

 上棟というのは、棟木(むなぎ)を上げることだ。
 棟木というのは、骨組みの一番上に載る木。
 右写真で言うと、てっぺんの大工さんの足許にある、前後に走る木だ。

 伝統的には、棟木が上がったところで工事を休み、上棟式をやる。
 そして屋根の上から餅をまいたりする。
 ところが最近は何事も忙しくなり、棟木が上がっても、その日のうちは工事を続け、夕方、式を上げる場合も多いようだ。

 この日は柱や梁を一気に組み立てるので、人出も必要だ。
 それで大工衆のほか、鉄骨、板金、電気、タイル、重機など、この工事に関わる多くの職人衆が参集する。
 今日はその数、十二人ほど。
 夕方、仕事が終わったところで、敷地の四隅に塩・米・酒をまいて、工事の安全を祈願する。
 その後、タンドールでアルークルチャ(ジャガイモ入りチャパティ)を焼いて、職人衆にふるまった。


7月4日(火) 進捗状況

 着工から三週間。
 日ごとに様子を変える建築現場。
 基礎から骨組み、屋根、外壁と工事が進むこの時期が、最も外観上の変化の著しい頃だ。

 今のところ降雨も少なく、工事も捗っているようだ。
 もしかしたらあとひと月くらいでできちゃうんじゃあるまいか♪
 …という甘い考えも頭をよぎるのであるが、棟梁に聞いてみると「そんなわけにゃいかねえ」と一蹴される。
 これから先は、建具などの細かな作業に入るから、相応の時間がかかるのである。

 今日は建築家の丹羽さんが来て、いろいろチェック。
 上写真は、電気屋さんと照明の打合せをしているところ。(左から真木千秋、丹羽さん、電気工事の番場さん。背後はカフェ部分)

 この番場さんも、十年前のアトリエ新設以来のお馴染みである。
 オーディオやコンセントなど幾つか追加の電気工事が必要な模様。
 「追加はいくらでも歓迎だけど、その分しっかり稼いでくださいよ」と励まされる。

 下写真は内部の様子。
 中央に螺旋階段が設置され、真木千秋がさっそく昇ってみる。
 ギャラリーの一階と二階を結ぶ通路だ。
 これも近在の板金屋さんの労作である。
 
 天井は既に張られ、天窓がちょうど嵌め込まれたところ。(千秋の頭上)
 だんだん屋内のスペースが想像できるようになってきた。
 思ったよりも広い♪ というのが千秋の印象であった。

7月14日(金) (あなたにもできる) Maki椅子の作り方

 「紺屋の白袴(こうやのしろばかま)」という言葉がある。
 藍染屋が白い袴をつけているということで、「坊主の不信心」みたいな意味だ。

 当スタジオにもそんな風情が…
 たとえば、在りし日の青山店にはこんなカッチョ良いスツールが展示されていた。
 ところが、自分たちのティータイムに使う椅子は、(誰かがホームセンターから買ってきた)どうしようもなくシンプルなスチール椅子だったりする。

 というわけで、ここいらで奮発し、私たちも布張りのスツールに座ろう!! と衆議一決。
 しかし、悲しいかな、予算には限りが…
 そこで自分たちの頭と手を使うことにする。
 幸い、布については売るほどある。

 スタッフ大村恭子の父上は建築家で、椅子の布張りにも熟達している。
 父から親しく秘法を伝授された恭子、デジカメ画像も添え、それをMakiスタッフに教え込む。
 そしてみんなで、週明けからヒマを見て、作業にいそしむのであった。
 以下は本邦初公開、父娘相伝のMaki椅子製作法である。

 必要なもの;
 椅子 ― 今回はTハンズから木製の丸スツールを購入。二千円弱。
 工具 ― ガンタッカー(ホッチキスみたいなもの)。大小で一万円くらい。
 布―今回は小タペストリー(ベージュ、黒、白)、反物(茶、グレー)を使用。50cmあれば作れる。裏地には綿布を用意。脚のあて布に厚手のハギレを少々。
 クッション ― ウレタンフォームをホームセンターで買う。(400円)

 手順はこうだ;

  1. 椅子の座面を取り外し、布、ウレタンフォームの順に重ねる。(布はタペストリー「テクスチャ」)

  2. 適当な張力をかけて、ガンタッカー大で固定。(布は「綿 Mix タビー」)
    最後に余剰分を切り取る。

  3. 脚のとりつけ部分にハギレを渡し、座面布との段差をなくす。

  4. 裏地をガンタッカー小で固定。
1
2
3
4
 最後に脚を取り付け、完成したのが左写真。

 最初はちょっと座面がいびつだったりしたが、数を重ねるにつれ、美しい曲線が出現。
 座り心地も上々だ。

 スタッフ総出で喜々として作業している。
 豊かなティータイムを心に描き、気合の入り方も尋常ではない。
 今夕までに十脚のMaki椅子が誕生したのであった。

8月3日(木) 竹林夏日

 
八月に入って、やっと夏らしい日々を迎える。
 東京あきる野市も今日は33℃くらいまで気温が上昇した模様。
 ただ、ここ竹の家は、前庭の空がすっかりケヤキによって蔽われているので、けっこう涼しい。
 家も昔の造りで、風が通る。
 だから冷房なしでもやっていける。
 実際、そのほうが健康にも良いのである。

 そんな夏空の下、いろんな人が集まり、いろんなことをやっている。
 母屋では絹の糸取り。
 今週の土曜、信州上田で藍生葉染めを行うので、その準備だ。
 今年の春繭から糸を取り、それを持参して染めるのだ。

 外の染め場では、美大院生の服部クンが草木染め。
 卒業製作のための糸染めだ。
 キハダやエンジュを煮出して、黄色を出している。
 傍で真木千秋も一緒になって、キハダで赤城節糸を染めている。
 これも上田へ持参して、藍生葉をかけて緑を出そうというのだ。

 Shopの建築現場では、大工衆が最後の追い込み。
 写真右上に、外壁の板を張っている姿が見える。
 こちらも冷房なしの職場だ。


8月4日(金) 現場点描

 今日は建築家の丹羽貴容子さんが来竹。
 一緒に現場をあちこち見て回る。

 思い返せば、着工したのが6月14日。
 途中、7月後半は多雨で滞ったが、それ以外は順調に推移したようだ。
 そもそもこの時期は一年でも一番日の長い頃だから、雨さえ降らなければ工事も捗るのだ。
 7月4日の日誌写真↓と比べれば、この一ヶ月間の進み具合がわかるだろう。
 壁や床、天井が張られ、大工仕事はほぼ完了。
 これからは内装や塗装、電気や水道の工事に入る。

 上写真は二階の様子。
 丹羽さん(左端)とともに、展示用調度について打ち合わせしている。
 天窓から差す盛夏の陽光が眩しい。

 左写真は吹き抜け部分。
 上下に長い窓からは竹林が望める。
 (両写真とも広角レンズ使用のため遠近感が誇張されている)
 左下は森屋棟梁。
 順調に進んでホッとした表情。
 棟梁以下五人の大工衆が工事に携わってくれた。
 もう三〜四日でおしまい。その後はテラスを取り付けに来るという。

 右下は夏水仙。
 毎年今ごろ、石垣の上に可憐な花を咲かせる。
 背景は工事用トラック。

8月5日(土) 藍・生葉染め

 恒例の藍・生葉染め。
 今年は五日市からスタッフ3名を引き連れ、信州上田入り。
 真夏の陽光の下、朝九時前からスタート。
 まずは「Maki Textile Studio 藍草園」にて、藍草の刈り取り。
 6月19日に定植した藍草も、すっかり大きくなった。
 刈った藍草を桶に入れ、新鮮さを保ちながら、葉をちぎる。
 昔ながらの桶は美しいが、ふだん使わないから、多少水漏れする。
 「月のテーブル」のお客さん三人がちぎってくれる。
 愚妹・田中惠子も交じって、井戸端会議の様相。
 近くに流れる農業用水をふんだんに使えるのが良い。
 たらいの中には、田中農園産のスイカもプカプカ。

 そういえば信州出身の俳人・小林一茶の句にいはく;
「人来たら蛙になれよ冷やし瓜」
 染め上がった絹の糸カセ。
 赤城節糸やMaki春繭糸だ。
 グリーンは黄色との重ね染め。
 前もってキハダなどで下染めしておいたもの。

 気温は三十度を越えるが、さすが信州。乾燥しているので日陰や風は心地良い。
 宴の後。
 手の甲も藍染。
 数日間はこの状態だ。
 爪が染まっていないのは、前もって透明なマニュキュアを施したため。(爪が染まるとなかなかとれない)
 手の平はもっと染まっている。
 手前は頭脳労働をしていた私の手。

8月10日(木) 真夏の火遊び & 匠の群像

 台風一過の今日8月10日。
 盛夏の日射しの中、竹林スタジオでは皆それぞれの営みに励んでいる。

 私ぱるばは火遊び。
 じつはこれ、藍染の準備である。
 このたびは生葉染めではなく、本藍(!)。
 藍建ては02年に続いて、二度目の挑戦だ。
 今日はまず灰汁づくり。

 青梅・壺草苑からわけてもらった上等の木灰16kgを90リットル入りのポリバケツに入れ、大鍋で煮た80℃くらいの熱湯を注ぐ。
 そして翌日、その上澄みを取るのだ。
 それを五回ほど繰り返す。
 すなわち、この暑い中、五日間、連日の火遊びということ。
 ご近所も煙たくてご愁傷なことだ。
 竹林Shopの現場では、大工仕事がほとんど終了。
 それに替わって、いろんな職人衆が毎日やって来る。
 右写真はクロス屋さん。
 天井に白いクロスを貼っている。
 こちらは塗装屋さん。
 ローラー刷毛で軒を白く塗っている。
 家具工房「工作房」の加藤さん。
 今日はキッチンの流しや棚を取り付けてくれる。
 加藤さんには十年前、拙宅(中村好文デザインの養沢アトリエ)の調度も手がけてもらう。

 優美かつ実用的。
 加藤さんにはこの他に、キッチンのカウンターやレジ机、鏡、展示用の台やラックなどいろいろお願いしている。
 竹林ショップにお越しの節は、そういうところもご覧いただければと思っている。

8月12日(土) しっくい

 当スタジオもお盆休みに突入。
 でも竹林Shopの現場では、今日も職人衆が立ち働いている。
 左官屋さんだ。

 先にもご紹介した通り、大工の棟梁は森屋定男さん。
 十年前の拙宅(アトリエ)工事の時と同じだ。
 棟梁というのは、自分と肌の合う職人衆を周りに集めている。
 だから今回出入りする工匠たちも、顔なじみの人々が多い。
 この左官屋さん、今村さんも、そんな中のひとりだ。
 腕の良い職人さんで、真木千秋も一目置いている。
 この人がいるので、Shopの壁も迷うことなく「しっくい」となる。
 (写真左側がその今村さん)

 しかし、左官の現状は厳しいらしい。
 塗り壁の需要が少なく、後継者が育たないのだという。
 今村さんが仕事を始めた四十数年前は、そうではなかった。
 注文や催促が引きも切らず、電話の鳴るのが怖かったそうだ。
 ところが今では正反対。
 仕事の電話が来ないか待っているという。

 それでも最近は塗り壁がやや見直されてきて、注文も上向きなのだそうだ。
 しかし、この町に関しては、時すでに遅し。
 左官職人はみな彼と同年配で、あと二年もすると数は半減するだろうとのこと。

 だから、貴重なのだ。
 しっくいの壁。
 

8月28日(月) 完成間近

 前回お伝えしてから、お盆を挟んで半月余り。
 そもそもここ五日市はお盆が7月なので、8月の「お盆休み」中に働いていた職人衆もいた。
 完成・引き渡しは9月5日予定。
 あと一週間少々だ。

 竹林Shop工事現場には、連日いろんな職人さんたちが来て、最後の仕上げにかかっている。
 上写真は家具屋さんである「工作房」のスタッフが、展示棚を取り付けているところ。

 床も塗装が終わり、裸足で歩ける。
 建具屋さんが戸を取り付けてくれる。
 木枠の材はアラスカひのき。
 これでやっと戸締まりができる。
 中で暮らしたい気分。

 ここはキッチン部分。
 三脚の奥には、カウンターがついた。
 こちらはメープル材。
 二階の様子。
 螺旋階段も白く塗られ、ちょっとニッチな別世界。
 何も置かず礼拝堂にしたいような、静謐な雰囲気。 

9月2日(土) インド画報「筒織りマフラー」

 現在、真木千秋以下三名がインドで仕事中。
 三週間ほどの滞在も、もう終盤にさしかかる。

 今回はひとつ画期的なことがあった。
 インドからデジタル画像が送られてきたのだ。
 右写真がそれ。
 う〜ん、なかなか上出来である。
 しっかり背景をぼかして主題を引き立たせている。(まぐれか!?)

 それでは早速ご紹介しよう。
 名づけて「インド画報」。(家庭画報とか婦人画報に倣って)

 これは現在製作中の「筒織りマフラー」。
 竹の家で先日まで試織していたものだ。
 基本は二重織りだが、ぐるりと筒になるように織っている。
 この筒を適当な長さに切って縮絨(しゅくじゅう)すると、ふんわりした輪っか型マフラーができあがり。
 頭からかぶってすとんとマフラーになる、簡単で暖かいタイプ。
 工夫すれば帽子などになるかも。
 ナーシ絹の茶色とブルーの対比が鮮やかだ。


9月5日(火) 引き渡し

 Maki Textile 竹林 Shop。
 本日めでたく引き渡しと相成る。

 引き渡しというのは、すなわち、建築工事が終わって、大工さんから施主に物件が引き渡されることだ。
 6月14日の着工から三ヶ月弱。
 みなさん頑張ってくれたおかげで、スケジュール通りの完成であった。
 右写真、無事引き渡しを終えて現場を去る森屋棟梁。
 その左に、真木千秋(昨日帰国)、丹羽貴容子(建築家)、ラケッシュ・シン(シェフ)。

 かくして箱はできた。
 これからが忙しいのである。
 内部のしつらえ、庭やアプローチの整備など、自分たちですべきことが山ほどある。
 10月1日の開店まで、あと25日。
 つつがなく皆さんを迎えることができるか!?


9月6日(水) インド画報 II「衣のいろいろ」

ソフト・ロング・ベスト

 ゆったりとしたサイズで裾の長いベストです。
 秋冬はセーターの上に羽織れます。
 生地は新作、バーク生地。(織師のイスラムディンは長いリピートに四苦八苦....)

 パンツは春用の丈短パンツ。
 このロングベストと短パンツのバランスが、私と綾ちゃんは気に入っています。
 真木千秋は一昨日、インドから一足先に帰国。
 現在、大村恭子と太田綾が最後の詰めに勤しんでいるはず。
 そんな二人から、昨日届いた画像だ。
 それでは、大村のコトバでお伝えしよう。
ピンタック・スカート

 ウール平織。タテ糸・細ナーシ糸。
 これは無地に限りなく近い生地。でもナーシ糸のふくらみがなんともかわいい。

 この生地に、ランダムにピンタックを入れ、カタチに丸みを出しています。
 かわいい事まちがいありません。
バイアス・ピンタックブラウス

 
今までアイテムとして淋しかった半袖ブラウス。
 前身頃はバイアス、胸の辺りにピンタックでギャザーを作り、布に表情がでるようにしました。
 後ろ身頃は地の目使い。(生地のタテヨコのままという意味)
 横から見ると前がふんわり持ち上がってやわらかいスタイルです。
「この生地を生かさないと!」と奮闘しています。

9月22日(金) かまど

 竹林Shop オープンまで、あと九日。
 各員、休日も返上して奮励努力している模様である。
 それぞれが、好き好きに、黙々と、作業にいそしむ。
 それでなんとなく準備が進んでいく。
 これを哲学用語で予定調和と呼ぶ。
 ほんとに予定通り調和するかは、神のみぞ知るところ。

 用務員の私(田中ぱるば)は、枝払いとか、道路の補修とか、電気器具の配線とか、わりあい地味な作業に携わっている。
 そういえば今日、大事な仕事が片付いた。
 カマドの刷新である。
 草木染めなどに使うカマド。
 それは七年前、竹林開闢時に私が重量ブロックとセメントで作ったのであった。
 しかし時の経過とともに、あちこちガタが来て、最近ちょっと危険な状態にあった。
 今次の竹林Shopオープンイベントには「草木染め」もある。
 そこで耐火レンガを使って作り直そうと思っていた。

 大工仕事の得意な義弟Pに相談したところ、ドラム缶を使って作ると簡便で良いとのこと。
 そこで馴染みのガソリンスタンドから、古いドラム缶をひとつ購入してくる。
 義弟から工具を借りようとしたら、手伝ってくれるという。
 結局、切断から何から彼が全部やり、煙突まで自宅から持参して付けてくれた。
 今までは煙突がなく、燻製状態になりながら煮出しをしたものだ。
 これでかなり安全快適。かつ熱効率も上がるはず♪
 やっぱり人には相談してみるもんだ。

9月28日(木) 竹林茶屋

 オープンまであと三日と迫る竹の家。
 今日のイベントは、ティーハウス作りだった。
 指揮官は空間設計アーティストの小林響(ひびき)クン。
 昨日から泊まり込みでの参加だ。

 材料は数メートルの孟宗竹、二十数本。
 それを本日午後、六人がかりで組み立てる。
 ティピータイプの構造だ。
 ひびきクンの号令一下、みんなで竹を引き上げる。
 指示を与えるひびきクン。
 螺旋形に竹を組んでいく。

 竹は昨日、私も手伝って竹林から切り出したもの。
 生の孟宗竹というのは、かなり重たいものだ。
 良い運動になる。
 宵闇の迫る頃、やっと骨組みができあがる。
 これが茶屋となって、イベント期間中はみなさんにチャイを振る舞う場所となる。
 そしてひびきクンはその間もずっと泊まり込んで、茶屋の主人となる予定。

9月30日(土) Maki への道

 当スタジオは、その入口がちょっとわかりづらいかもしれない。
 それで最後の点睛として、入口に表示を設ける。

 左写真がその入口である。
 秋川街道に面している。
 武蔵五日市駅方面から来ると、左手だ。
 左側に竹のトライポッド、右側にモノリス型の黒い標識。

 この鬱蒼とした繁みに分け入ると、そこに駐車スペースがある。
 (ただし満杯の際には係員の指示に従うこと)
 標識を拡大すると…

 ←トライポッドは小林響クンの作で、Maki布がかけてある。
 今回のイベント(〜10/8)が終わったら撤去されるかも。
 また雨天の場合には布は無い。


 モノリス型は木製。→
 上部に「絲」のロゴマークがついている。
 それほど目立たないから、車の場合、近辺に来たら徐行していただきたい。
 しかし、困ったことに、いちばん目立つ標識は、トライポッドの更に左側にある、
←コノ看板である。
 数年前、付近に変な男が出現したらしい。(私ではない)
 今はまったく平和なのであるが、爾来、当スタジオの表と裏通りにこの看板が据えられてしまった。
 こんど駐在さんに頼んで撤去してもらおうと思うが、ともあれ、この看板が見えたら当スタジオもすぐだと思って良い。
 かくして、開店前夜、するべきことはおおかた終了。
 あとはスタッフ一同、皆さんのお越しを待つばかりである。

 竹林日誌 06春/05秋/05夏/05春/04秋/ 04夏/04春/03秋/03夏/03春/02後半/02前半/01/99-00/「建設篇」/ホームページ