8月4日(土) ムガ蚕のズリ出し
8月イベントたけなわの東京・竹林shop。暑気もまた、たけなわの様子。
一方、こちらGangaMaki工房は、雨季たけなわ。昨日はとりわけ豪雨で最高気温も25.8℃。今日も似たようなものだ。雨ばかりで洗濯物も乾かないので、そぞろに日本の夏空が懐かしくなる。
そんな中、昨日から、工房では初の試みが行われている。
ムガ蚕のズリ出しだ。
繭は一週間前、東北インドのメガラヤ州で手に入れたものだ。繭の数はちょうど千粒。重量は約5kgだ。ムガ蚕繭は重量ではなく、一個いくらで取り引きされる。千粒の繭から200gの生糸が採れるという。
「インドの至宝」とも呼ばれるムガ蚕。当スタジオでは、今までアッサム州から生糸を仕入れていた。非常に高価なので、アクセント的にストールに織り込んだりする。
ムガ蚕の本場アッサム州では、ムガ蚕はこのような簡単な木製座繰機によって手挽きされている。(最近は機械も普及してきた)
ただ、こうした器具を使って挽くと、糸がピンと伸び、また平たくなる。
そこで、より原始的な手法であるズリ出しによって挽くとどうなるか、というのが昨日からの実験である。
昔はアッサムでもおそらくズリ出しは行われていただろうが、今そんな悠長なことをする人はまずあるまい。
そもそも、当スタジオは、ムガ蚕に関しては、ズリ出しはおろか、座繰りさえしたことがない。
すべては手探りだ。
メガラヤ州の養蚕指導員に聞いてみると、「150個の繭をヒタヒタの水に漬け、苛性ソーダ2.5gを加え、15ー20分煮る」のだそうな。
まずは繭外側のケバを取る。(写真1)。もともと繭層の薄いムガ蚕繭なのだが、そのケバをゴソッと除去すると、更に薄くなる。ちょっと心配。
次は煮繭(しゃけん)だ。重曹でも良いというから、まず重曹で長目に煮てみる。しかしながら、ほとんど解舒(かいじょ…ときほぐれること)しない。
写真2は、煮ながら解舒の具合を見る真木千秋。手にしているのは日本から持参の亀の子タワシ。これで繭をこすり、糸口を探るのである。
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そこで指示通り苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)に切り替える。が、強力な薬品だから、ちょっと油断すると、解舒どころか、真綿状になってしまう。
嗚呼、貴重な繭が150個も無駄になってしまった…
いや、嘆くのはまだ早い。真綿や屑繭からも糸は紡げるのだ。
タッサーシルクのギッチャ糸づくりの要領で、繊維の束をつまみ出し、指や足や甕底で軽く撚りをかけて、糸にする。(写真3)。
すると、今まで見たこともないような糸ができる。金色に輝き、しかも細かなウェーブのある紡ぎ糸だ。(写真右上)。「煮過ぎても輝きが落ちない」と真木千秋。やはりメガラヤ産ムガのパワーか。
煮繭時間と火加減に気をつけながら、再挑戦する。
するとなんとか挽けるようになる。
とは言え、家蚕のズリ出し(7月25日の記事参照)のようにスムーズには行かない。長年の品種改良を経た家蚕に比べると、ムガ蚕は文字通り野蚕なのだ。
10〜15粒から一本の生糸を挽く。
やはり従来のムガ生糸とは趣がまったく違う。紡ぎ糸と同じく、細かなウェーブが全体的に入るのだ。(写真右下)。これは座繰機を使うと消えてしまう特質だ。そのウェーブは家蚕座繰糸より顕著で、「縮れ」と言ったほうがいいくらいだ。
こうした特質を織物に活かすことはできるのだろうか。
また、そもそも、織物に活かせるくらい、まとまった量のズリ出し糸が生産できるのか。
写真4の真木千秋も西山茉希も、こうした作業にかかると時間を忘れてしまう。
今日も西山はインド人スタッフとムガ蚕糸ズリ出しに励んでいるが、昨日より作業は捗る様子。
はたして「最高のシルク」の「新しい糸」がMaki布を彩る日は来るのか!?
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